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東京地方裁判所 平成9年(ワ)9685号 判決 1998年3月24日

原告

前原秀俊

ほか五名

被告

鶴間蔵之助

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武それぞれに対し、各金三八三万七一六八円及びこれらに対する平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは連帯して、原告前原秀俊、同柳原雅子それぞれに対し、各金一九一万八五八四円及びこれに対する平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、二分して、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは連帯して、原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武それぞれに対し、各金六三五万一二二一円及びこれらに対する平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは連帯して、原告前原秀俊、同柳原雅子それぞれに対し、各金三一七万五六一〇円及びこれに対する平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ら

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故により関東サキが死亡したが、同被害者の相続人である原告らが、被告らに対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

以下の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一)  日時 平成七年一一月一八日午後五時ころ

(二)  場所 新潟県両津市大字夷八九番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三)  被害者 関東サキ(以下「サキ」という。)

(四)  加害車両 普通貨物自動車(新潟四〇ま五五九四)

(五)  同運転者 被告鶴間藏之助(以下「被告鶴間」という。)

(六)  同保有者 被告内田チヨミ(以下「被告内田」という。)

(七)  事故状況 被告鶴間運転に係る加害車両が、新潟県両津市大字湊方面から同市大字春日方面に向かって走行していたところ、道路を横断しているサキを認め、急制動の措置を採ったが間に合わず、被告車両の前部をサキに衝突させた。

本件事故により、サキは、同日午後八時四五分に死亡した。

(八)  責任原因 被告鶴間には、前方を注視して運転すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、前方を歩行するサキを発見するのが遅れた過失があり、また、サキを発見してからは、直ちに、急制動の措置ないし適切なハンドル操作をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、衝突を回避しなかった過失があり(衝突を回避できたとの点については、当事者間に争いがある。)、本件事故は、同被告の右過失によって生じたものであるから、同被告には、民法七〇九条に基づく責任がある。

被告内田は、加害車両の保有者であるから、自賠法三条に基づく責任がある。

二  争点

1  原告の主張(損害額)

(一) サキの損害

(1) 逸失利益 一七二五万八五五〇円

(ア) 家事従事者としての逸失利益

サキは、原告関東與一郎とその妻佳己とともに三人で暮らしており、佳己とともに家事を負担していた。そこで、サキの家事従事者としての逸失利益は、次のとおり算定すべきである。すなわち、基礎収入を平成六年賃金センサス女子全年齢学歴計である年額三二四万四四〇〇円の半額(家事を佳己と平等に負担していたことから半額となる。)とし、生活費控除を三〇パーセントとし、就労可能期間を平均余命の二分の一である三・八七五年(そのライプニッツ係数は、三・四四三)として、算定すべきである。

3,244,400×0.5×(1-0.3)×3.443=3,909,664

(イ) 年金受給権に係る逸失利益

サキは、新国民厚生年金として一か月当たり二〇万七一五〇円、厚生年金として一か月当たり四万五三四一円、以上合計一か月当たり二五万二四九一円の給付を受けていた。したがって、サキが年金受給権を喪失したことによる損害は、生活費控除を三〇パーセントとし、期間を、平均余命である七・七五年(そのライプニッツ係数は、六・二九三九)として算定すべきである。

252,491×12×(1-0.3)×6.2939=13,348,886

(2) 慰謝料 二二〇〇万〇〇〇〇円

(3) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(4) 弁護士費用 四〇〇万〇〇〇〇円

(5) 以上合計 四四四五万八五五〇円

(6) 相続

サキの相続人は、原告関東關一(相続分七分の一)、同深沢ミツエ(相続分七分の一)、同関東實(相続分七分の一)、同白井武(相続分七分の一)、関東與一郎(相続分七分の一)、関東照男(相続分七分の一)、原告前原秀俊(相続分一四分の一)、同柳原雅子(相続分一四分の一)がいる。なお、関東與一郎及び関東照男の両名は、訴えを提起していない。

原告らは、相続分に従って、サキの損害賠償請求権を相続した。

原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武の損害賠償請求権は、各六三五万一二二一円、同前原秀俊及び同柳原雅子の損害賠償請求権は各三一七万五六一〇円である。

2  被告の主張(過失相殺)

本件衝突場所は、信号機の設置された交差点の横断歩道から一二メートルしか離れていない場所であるところ、サキは、横断歩道の信号が赤であるにもかかわらず、道路を横断した過失がある。

したがって、被告鶴間に過失が存するとしても、本件事故の態様に鑑みると、その過失割合は、二〇パーセントを超えることはない。

第三争点に対する判断

一  事故態様及び過失割合について

1  甲第五号証ないし第九号証、乙第一号証(枝番号の表示は省略)によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故の発生した道路は、新潟県両津市大字湊方面から同市大字春日方面に、南北に走る市道であり、幅員八・二メートル(このうち路側帯内側は一・二メートル)のアスファルト舗装がされた、歩車道の区別のない、片側一車線の道路である。本件事故現場付近は、住宅、商店が立ち並び、比較的賑やかであり、また、駐車禁止の規制がされているが、駐車車両は多い。最高速度は、時速三〇キロメートルに規制されている。事故当時、路面は乾燥していた。

(二) 被告鶴間は、平成七年一一月一八日午後五時ころ、加害車両を運転して、時速約二五キロメートルで、新潟県両津市大字湊方面から同市大字春日方面に、南から北へ向かって進行し、信号機の設置された交差点を青信号で通過し、本件事故現場付近に差し掛かった。

同被告は、進行方向右側に駐車していた車両に気を取られて、進路前方を注視せずに進行したため、折から、進路前方を右から左に(東から西に)横断歩行するサキに気付かず、黒ビニール様のものと見間違え、九メートル手前に至ってはじめて発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、加害車両の前部をサキに衝突させた。本件事故により、サキは、頭蓋骨骨折、両鎖骨骨折などの傷害を受け、佐渡総合病院に搬送されたが、同日午後八時四五分に死亡した。

2  以上認定した事実を基礎にして検討すると、被告鶴間には、前方を注視して運転すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、前方を歩行するサキを発見するのが遅れた過失があり、また、サキを発見してからは、直ちに、適切な急制動の措置を採るか又はハンドル操作をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、衝突を回避する措置を採らなかった過失があり、本件事故は、同被告の右過失によって生じたものであるから、同被告には、民法七〇九条に基づく責任がある。また、被告内田は、加害車両の保有者であるから、自賠法三条に基づく責任がある。

他方、サキにも、道路を横断歩行するに当たり、左側方向の動静を十分に注意しなかった過失がある。

両者の過失割合を比較すると、<1>被告鶴間は、時速約二五キロメートルと比較的低速度で進行しているにもかかわらず、前方を横断歩行するサキを僅か九メートル手前に至るまで発見できなかったこと、右側前方の駐車車両に気を取られて、サキを黒ビニール様のものと見間違えていたこと、本件事故現場は、市街地にある歩車道の区別のない、比較的人通りの頻繁な道路であり、このような道路を走行する者は、一層歩行者の安全に注意すべきであるといえること等に照らすならば、同被告の前方不注視等の過失は、重大であると評価されること、<2>他方、本件衝突場所は、信号機の設置された交差点の横断歩道から一二メートルしか離れていない場所であり、被告鶴間の対面信号は、青であったこと、<3>サキは、本件事故当時、八三歳の高齢者であったこと等の事情を総合して考慮すると、本件においては、二割の過失相殺するのが相当である。

二  損害について

前掲各証拠及び甲第一ないし第四、第七号証によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  逸失利益 九二二万五二二二円

サキの逸失利益の額は、以下のとおり算定すべきである。

(一) 家事従事者としての逸失利益

サキは、本件事故当時、八三歳であるが、健康状態も良好であり、家事に従事していた。そこで、サキの家事従事者としての逸失利益の額について、生活状況等一切の事情を考慮して、基礎収入を平成七年度賃金センサス女子全年齢学歴計である年額三二九万四二〇〇円の半額(サキの年齢及び家事を佳己とともに負担していたこと等の事情を考慮した。)とし、生活費控除を四〇パーセントとし、就労可能期間を平均余命の概ね二分の一である四年(そのライプニッツ係数は、三・五四五九)として、以下のとおり算定した額と認めるのが相当である。

3,294,200×0.5×0.6×3.5459=3,504,271

(二) 年金に係る逸失利益

サキは、新国民厚生年金として二か月当たり二〇万七一五〇円(年額一二四万二九〇〇円)、厚生年金として二か月当たり四万五三四一円(年額二七万二〇四六円)の年額合計一五一万四九四六円の支給を受けていた。したがって、年金受給権を喪失したことによる損害は、生活費控除を四〇パーセントとし、期間を、平均余命である七・七五年(そのライプニッツ係数は、六・二九三九)として、以下のとおり算定した額と認めるのが相当である。

1,514,946×0.6×6.2939=5,720,951

(三) サキの逸失利益の合計額は、九二二万五二二二円となる。

2  慰藉料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

一切の事情を考慮して、サキが、本件死亡事故により被った精神的苦痛に対する慰藉料の額は、遺族固有の慰藉料を含めて、総額二〇〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

本件交通事故と相当因果関係のある損害として、右金額を認めるのが相当である。

4  以上合計 三〇四二万五二二二円

5  過失相殺後の損害額 二四三四万〇一七七円

前記のとおり、本件事故の発生に関し、サキに過失があるので、過失相殺により、前記損害額から、二〇パーセントの割合を乗じた額を減額する。右減額後の損害額は、二四三四万〇一七七円となる。

6  相続

サキの相続人として、原告関東關一(相続分七分の一)、同深沢ミツエ(相続分七分の一)、同関東實(相続分七分の一)、同白井武(相続分七分の一)、同前原秀俊(相続分一四分の一)、同柳原雅子(相続分一四分の一)がいる。

なお、相続人には、原告の外に、関東與一郎(相続分七分の一)及び関東照男(相続分七分の一)もいるが訴えを提起していない。

原告らは、相続分に従って、サキの損害賠償請求権を相続した。そこで、原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武の損害賠償請求権は、各三四七万七一六八円、同前原秀俊及び同柳原雅子の損害賠償請求権は、各一七三万八五八四円となる。

7  弁護士費用

事件の性質、難易及び認容額等一切の事情を考慮し、原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武については、各三六万円、同前原秀俊及び同柳原雅子については、各一八万円を、それぞれ、本件事故と因果関係のある弁護士費用に係る損害額と判断した。

8  損害額合計

以上を合計すると、原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武の損害賠償請求権は各三八三万七一六八円、同前原秀俊及び同柳原雅子の損害賠償請求権は各一九一万八五八四円となる。

第四結論

よって、本件各請求は、以下の限度で理由があり、その余は理由がない。

1  原告関東關一、同深沢ミツエ、同関東實、同白井武については、各三八三万七一六八円及びこれらに対する不法行為の日である平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

2  原告前原秀俊及び同柳原雅子については、各一九一万八五八四円及びこれらに対する不法行為の日である平成七年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 飯村敏明)

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